独立して開業しようとしたとき、個人事業主として事業を行う方法と、会社組織にして事業を行う方法があります。
個人事業と会社の違いは何でしょうか?
このページでは、それらの主な違いをピックアップしてみました。
目次
会社と個人事業の違いとは?
会社と個人事業の違いは、法人登記をしているかどうかです。
同じ事業を営んでいても、事業者が法人登記をしていれば「会社」となり、登記していなければ「個人事業」となります。
一般的に、規模が大きいと会社、小規模な事業は個人事業というイメージになりやすいと思いますが、事業規模は関係ありません。
極端な話になりますが、従業員が500人いても法人登記をしていなければ個人事業ですし、法人登記をしてあれば社長1人だけでも会社です。
法人登記をしているか否かの違いにより、法律上の取り扱いが大きく変わり、税法上の取り扱いも全く異なってきます。
開業手続きの違い
会社と個人事業では、開業時の手続きが大きく異なります。
個人事業の場合は、税務署に開業届を提出するだけなので費用はかかりません。
それに対して、会社は手続きに手間とお金がかかります。
おおまかな違いを表にまとめてみました。
会社 | 個人事業 | |
---|---|---|
開業・設立手続 | ||
費用(登録免許税) | 合同会社の場合、6万円~ 株式会社の場合、15万円~ |
0円 |
廃業手続きの違い
会社と個人事業では、廃業時の手続きも大きく異なります。
大まかな違いを表にまとめてみました。
個人事業の場合は、厳密には廃業届を提出するだけではない場合もあります。
例えば、事業用として取得した財産を廃業手続後に自家消費する場合は、個人に売却処理して申告するといった処理が必要になるなどです。
また、廃業するまでの事業所得に対する個人確定申告は必要です。
会社 | 個人事業 | |
---|---|---|
廃業・解散手続 |
|
|
費用(登録免許税) | 合同会社の場合、4万1千円~ 株式会社の場合、4万1千円~ |
0円 |
会社の場合は、債権の取立が完了し、債務は弁済し、全ての財産を換価した後に、残余財産を株主や出資者へ分配する作業が完了しなければ、会社を消滅させることができません。
それまでの間に、各種申告や届け出が必要になるので手間がかかり、費用と時間を要します。
専門的な知識も必要になる作業ですので、税理士や司法書士の先生に頼むことになれば、それだけ費用もかかります。
その辺が、廃業に係る会社と個人事業との大きな違いです。
経理の違い
個人事業の場合
個人事業では、自分のお金と事業で使うお金の区分けが、明確でない部分があります。
例えば、家賃収入がある方ですと、家賃収入が入る個人名義の預金通帳から、自宅の水道光熱費が引き落とされていたり、生活費として引き出したりしているといったケースはよくあることです。
自分の財布に対して、事業に関係のある入出金と、プライベートの入出金が混在している状態です。
複式簿記で記帳すると、1つの取引を同時に2つの帳簿に記帳するので、お金の動きと同時に入出金の理由に相当する相手科目の記帳が行われます。
個人事業用の複式簿記には、事業に無関係の入出金に対して用いる、店主勘定(事業主勘定)という抜け穴が用意されています。
事業の支出でも収入でもないお金の流れは、店主勘定(事業主勘定)を使うことで、事業に関する損益計算ができる仕組みになっています。
さらに個人事業主の場合は給与という概念はありません。事業で儲けて税金を支払った後の自分の預金口座の残りは、全て生活費に充てられる点が大きな特徴です。
会社の場合
会社の場合には、出資者のお金(株主のお金)を動かすことになるので、口座は会社の名義になり、個人と会社のお金の区分けは明確になります。
社長1人だけの会社であっても、会社から社長個人のお金を引き出せるのは、基本は役員報酬だけです。
個人事業の場合とは異なり、社長は会社の預金口座から私的なお金を自由に引き出すことはできません。
社長のプライベートな買い物や預金の引き出しがあった場合は、貸付金になります。
もしも貸付金とし処理しなかった場合に、税務調査で否認されれば給与扱いとなり、定期同額給与ではない給与として課税対象になります。
正しく貸付金にしていた場合でも、利息を取らなければいけません。
考え方として会社の場合は、たとえ100%出資(株主)である社長であっても、「他人の資金を預かって運用している」という意識が必要になります。
決算時期の違い
「決算」とは、1年間の収入・支出を計算し、利益や損失を計算することです。
個人事業では、毎年1月1日から12月31日までの間に区切って損益を計算し、翌年の3月15日の個人確定申告期限までに所得税を計算して申告することになっています。
会社の場合は、この1年間の区切り(決算期)を、任意に決めることができるので、例えば6月18日から翌年6月17日までを1年とすることができます。
日本では上場企業をはじめ、4月1日から3月31日を1年とした一区切り(3月決算)にしている会社が多い様に感じますが、全体の19%程度のようです。(国税庁のホームページより)
期末から決算が確定して法人税の確定申告書ができあがるまでの時期は色々と大変です。会社の場合は繁忙期を避けて決算期を決めることができるメリットがあります。
申告時の違い
個人事業の場合
個人事業の確定申告は、毎年3月15日までと決まっています。
いつ事業を開始しても、申告時期は翌年3月15日までに行わなければいけません。
事業に係わる決算を行い、青色申告決算書または収支内訳書を添付して、事業主自身の個人的な生命保険料控除などや医療費控除などの数字を織り込んで、確定申告書を提出します。
税務署も、個人事業の場合は、経理が初心者の人もいるということを前提に接してくれますので、経理初心者のための指導も行われています。
会社の場合
会社の場合は、任意に決めた決算月から2ヶ月以内が申告の期限になります。
個人の確定申告と異なり、法人の確定申告はかなりハードルが高いです。
複式簿記による記帳が必須で、決算処理と財務諸表を作成した後に、法人税の確定申告書を作成しなければいけません。
法人の申告書類の数は、付表や明細を合わせると100種類以上あります。
一般的に必要となる書類は10~20種類前後ですが、決算書の税引後利益を起点に、法人特有の「益金」「損金」のそれぞれ「算入」「不算入」の申告調整を「別表」により計算して納税額を算出するのでとても複雑です。
税務署の対応も、個人事業の場合とは異なり、会社の場合は経理ができて当たり前という前提で接します。
最近は、会計の知識が無くても入力ができるように作られたクラウド会計ソフト「freee」「マネーフォワードクラウド会計」「弥生会計オンライン」といった商品も出ていますが、やはりある程度の経理の知識は必要です。
経理の概要把握で簿記検定3級レベル、会社の経理を1人で行うのであれば簿記検定2級の商業簿記レベルの知識は学んでおいた方が良いでしょう。
税金(税率)の違い
個人事業の場合
個人事業の場合は、所得税、個人住民税、個人事業税、消費税がかかります。
以下は所得税の速算表です。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え 4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
※平成27年分以降の所得税の速算表(国税庁)
会社の場合
会社の場合は、法人税、法人住民税、法人事業税、消費税がかかります。
法人税率は資本金や課税所得の金額だけでなく、法人の種類によっても異なります。
以下は、普通法人のうち期末資本金1億円以下のみの抜粋です。
課税所得 | 税率(平成30年4月1日以後開始事業年度) |
---|---|
年800万円以下の部分 | 15% |
年800万円超の部分 | 23.2% |
社会保険の違い
個人事業の場合は、従業員が常時5人未満の場合には社会保険への加入義務がありません。
会社の場合は、社長1人の会社であっても、社会保険への加入義務が生じます。
加入義務があっても、会社設立後、社会保険への加入手続きを行わずに放置していれば、未加入のままとなります。
未加入の状態ですと、社会保険事務所から加入義務がある旨の催告が複数回行われます。
加入義務を怠ったまま放置しておくと、年金事務所の調査が行われ、最大2年間遡って社会保険料の支払いが生じます。
対外的な違い
- 取引先や金融機関からの信用度が高まる
- 従業員の採用に有利
- 取引先が法人に限定している事業者と取引ができる
- 責任の範囲は、個人事業の場合は無限責任、法人(合同会社・株式会社)の場合は有限責任
まとめ
何か事業を始めようとした時に、個人事業で始めるか会社を設立した方が良いか、迷うことがあると思います。
個人事業でスタートして事業が軌道に乗り、税金面での損得を考えて法人成りを検討することもあると思います。
この記事で取り上げたように、税金面以外にも多くの違いがあります。
一長一短ありますので、それぞれのメリットやデメリットを比較して検討することが大切です。