就業規則

 

給料などの決まりごとを規定した就業規則。

まだ雇用する人も少ないし、作るの面倒だし..。

必要になった時に作れば良いでしょ!

そんなこと、考えていたりしませんでしたか?

我が国では従業員10人未満の会社が8割を占めています。
都内の従業員5人以下の企業のうち、就業規則を作っていない割合は、63%に上るそうです。東京中小企業家同友会調査、日本経済新聞

この記事をご覧になっているということは、作った方が良いのか迷っているということですよね。

作らないとデメリットの方が多いこと、ご存じでしたか?

2019年4月以降、順次適用が開始される「働き方改革法」へ対応するためにも、就業規則を作成するメリットは大きいです。

この記事は、就業規則の作成義務が無い常時9人以下の事業場において、就業規則が無いことでのデメリット例をご紹介し、就業規則の作成・提出・効力を持たせるための方法についてまとめてあります。

 

就業規則とは?

労働時間や賃金、労働者が会社で働くうえで守るべきルールについて定めたものが「就業規則」です。
違反者に対して罰則を設けられるので、従業員の行動を規制し会社を守ることができます。反面、従業員の権利を明確にする部分もあるので、その点では会社は縛られます。

常時10人以上の労働者を雇っている「事業場」は、必ず作成しなければいけないことになっています。(労働基準法 第89条)
一時的に10人未満になることがあっても、常態として10人以上の労働者がいる場合は作成の義務があります。

「事業場」とは、本店・支店・営業所・工場などの場所的概念によって判断される単位です。
※「就業規則」は、それぞれの「事業場」ごとに作成します。

就業規則の作成・届出義務があるにも関わらず、それらを怠った場合には「30万円以下の罰金に処する」と定められています。また、労働条件や賃金に関する規定などを変更した場合も同様です。(労働基準法 第120条)

常時9人以下なら、作らなくても良い!

「常時10人以上」が作成・提出義務の要件です。
正社員・パート・アルバイトなどの雇用形態や勤務時間を問わず、「事業場」にいる労働者が常時9人以下ならば、作成の義務は無いので罰則もありません。

就業時間や給料の支払いなどの基本事項について就業規則を作成しなかった場合には、労働基準法等の原則に従うことになります。

就業規則を作のは手間がかかるし、専門家に頼めばお金がかかりそう...。

でも我が社の事業場は、常時9人以下。

作成の義務が無くて、罰則も無いなら、わざわざ作らなくてもいいでしょ!

 

そう考えたくなりますよね。
でも、作成しなかった場合には、様々なデメリットがあります。

労使間でのトラブル回避のためにも、1人でも雇ったならば、作成しておいた方が良いのではないでしょうか?

私は作成しておくことを強くオススメします。

常時9人以下、就業規則を作らない場合のデメリット

デメリットの例を列挙してみました。

  • 不就労時間の賃金控除の際、規定が無いので月給制の場合に計算が困難になる。
  • 遅刻や欠勤を繰り返す労働者に対し、不就労時間を上回る減給処分が出来ない。
  • 問題を起こす労働者に対し懲戒解雇などの処分を行うと違法。労働者に不当解雇として訴えられ裁判になった場合、会社はほぼ負ける。
  • 退職の申し出日から、2週間後には労働者は退職することが可能となり、引き継ぎ期間が短くなってしまう。
  • 助成金のうち、就業規則を作成し届け出ていることを要件としているものは受給できない。
  • 労働者側は、給与や有給休暇などについて規定がされていないと不安になる。
  • 何か問題が起きる都度、役員が関与して対処することになり、時間を費やしてしまう。

就業規則は、会社の法律です。
予め定めておけば、トラブルになった際にも迅速に対処することができます。

労働基準法等の法律に違反していなければ、就業規則の内容は会社が自由に作成できます。規定の仕方によっては、会社に有利になります。

労働条件などをめぐるトラブル回避のためにも、作成しておいた方が良い書類と言えるでしょう。

就業規則には何を記載する?

就業規則の記載内容は、

  1. 必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)
  2. 事業場独自の定めがある場合に記載しなければならない事項
    (相対的必要記載事項)
  3. 任意に記載する事項

以上、大まかに3つに分かれます。

もう少し細かく見ていきましょう。

①絶対的必要記載事項

次の内容は、必ず記載しなければいけないこととされています。

  1. 労働時間関係
    始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項
  2. 賃金関係
    賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
  3. 退職関係
    退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

②相対的必要記載事項

次の内容は、事業場で独自に定めてある場合に記載しなければならないこととされています。

  1. 退職手当関係
    適用労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
  2. 臨時の賃金・最低賃金額関係
    退職手当を除く臨時の賃金等(賞与)及び最低賃金額に関する事項
  3. 費用負担関係
    労働者に食費、作業用品その他の負担をさせることに関する事項
  4. 安全衛生関係
    安全及び衛生に関する事項
  5. 職業訓練関係
    職業訓練に関する事項
  6. 災害補償・業務外の傷病扶助関係
    災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  7. 表彰・制裁関係
    表彰及び制裁の種類及び程度に関する事項
  8. その他
    事業場の労働者すべてに適用されるルールに関する事項

③任意に記載する事項

企業理念や目的、適用範囲、採用手続、福利厚生についてなど、使用者が任意に記載することができる事項です。

公序良俗に反しない範囲内で自由に記載することができます。

就業規則の作成方法

ここでもう一度おさらいしておきましょう。

就業規則の作成は、企業単位ではなく「事業場」単位での作成及び届け出が必要です。

それぞれの事業場単位で、常時10人以上の労働者を使用する場合には、作成が「任意」ではなく「義務」になります。

※「事業場」とは、本店・支店・営業所・工場などの場所的概念によって判断される単位です。
※正社員・パート・アルバイトなど雇用形態を問わず、勤務時間も問わず、全ての労働者の数を数えます。
※派遣社員は、人数に含めません。

雛形(ひな形)を活用して作成する

自社の就業規則は、雛形(ひな形)を活用して作成するのが一般的にです。

厚生労働省のページにひな形が用意されています。

厚生労働省:モデル就業規則

各労働局のページにもひな形が用意されていますが、厚生労働省が公開しているひな形は、最新の法改正に随時対応して更新されています。

厚生労働書のひな形には、英語・中国語・ポルトガル語・ベトナム語版も掲載されています。

<ひな形利用時の注意点>

自社の実情に合わない条文が含まれていたり、不足している条文がある可能性があります。自社に合うように内容を検討し、条文の削除・訂正・追加を行う必要があります

「就業規則作成支援ツール」を活用して作成する

厚生労働省が運営するサイト「スタートアップ労働条件」で、「就業規則作成支援ツール」が今春より公開されました。

<就業規則作成支援ツールについて>
https://www.startup-roudou.mhlw.go.jp/support_regulation.html

このツールは、前述した「モデル就業規則」の規程例や作成上の注意を参考にしながら利用するものです。入力フォームから必要項目を入力し、PDF化したものを印刷することで、労働基準監督署に届出が可能な「就業規則」を作成できます。

ユーザー登録をすれば、過去に登録したデータを呼び出して書き換えることができます。(ユーザー登録しないで利用することも可)

<就業規則作成支援ツール利用時の注意点>

自社の実情に合わない条文が含まれていたり、不足している条文がある可能性があります。自社に合うように内容を検討し、条文の削除・訂正・追加を行う必要があります

書籍を活用して作成する

就業規則に関する書籍は数多く出版されていますが、改正があるので最新のものを選ぶことが大切です。

2019年4月1日から施行の「働き方改革法」に対応しているものの中から、幾つかご紹介します。



改訂版 サッと作れる小規模企業の就業規則

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2019年3月14日発売。(改訂版)
「従業員10人未満の社長は必読!」とあるように、零細企業をターゲットにした本です。この本を読むと、就業規則の必要性が理解できます。著者が推奨する「伝説の就業規則」を掲載。比較的簡単に就業規則の作成ができるマニュアル本です。


2019年6月3日発売。
中小企業の「働き方改革」への具体的な対応を就業規則に落とし込んで解説している本です。本書で解説されている規定のひな形11種類をダウンロードすることができるようになっているので、自社を働き方改革に「とりあえず」対応させることができます。


2019年4月18日発売。(第6版)
就業規則の基礎知識から始まり、70項目に分かれて一通りのことが記載されています。巻末にはモデル規定集として、正社員の就業規則、賃金規定、退職金規程、育児・介護休業規定、パートタイマー就業規則が掲載されています。

専門家へ依頼する

費用はかかりますが、専門家に依頼した方が時間と労力をかけずに、自社に合った就業規則の作成ができるので安心です。

雛形(ひな形)を活用して作成した場合、内容が不十分だと労使間で想定外のトラブルに発展する可能性があります。

内容不備によるトラブルの例

法律的な専門知識が無くても、ひな形を頼りに適当に作成することはできますが、トラブルが起きた時が怖そうです。
将来の無駄な出費やトラブルに備えるためには、社会保険労務士や労務関係に詳しい弁護士に依頼して作成することをオススメします。

書類を作成しただけでは効力無し! どうすれば良い?

就業規則は、書類を作っただけでは効力が認められません。
どうすれば、作成した就業規則が認められる様になるのでしょうか?

就業規則作成後に、次の3点を行えばOKです!

  1. 作成(変更)した就業規則の内容について、労働者の代表者から意見を聞き、意見書を作成する。
  2. 就業規則に①の意見書を添付して、管轄の労働基準監督署に届け出る。
  3. 届け出た就業規則を、常時各事業場の見えやすい場所(社内LAN内のフォルダ等でも可)に掲示(備え付け)するか、書面で労働者に配布し、職場に十分に周知する。

2の「意見書を添付して労働基準監督署へ提出」は、常時10人未満の事業場においては届け出を行わなくても就業規則は有効です。参考① 参考②
しかしトラブルになった際、特に裁判沙汰になるなどした場合、就業規則なんか知らないと言わせないためには、公的な機関に届け出ておいた方が安心でしょう。
予め労働基準監督署に届け出ておけば、急に増員して10人以上になった場合も、慌てて手続きをする必要がなくなります。

労働者代表の意見聴取

就業規則を労働基準監督署で受理してもらうには、「意見書」を添付しなければいけません。

「意見書」とは、どの様なものでしょうか?

就業規則の作成は、記載内容のルールさえ守っていれば会社が一方的に決めて作ることができてしまうので、一般の従業員は作成過程に参加しないことが殆どでしょう。
そこで「従業員の代表者に、就業規則の内容を確認してもらって意見を聞く」ということが法律で定められています。

それを書面化したものが「意見書」です。意見書ひな形の例

従業員の代表者とは「事業場の労働者の過半数を代表する者」を指します。社長など地位のある者が、従業員代表を指名してはいけません。他の従業員を監督または管理する地位にある管理職の人も従業員代表にはなれません(管理監督者しかいない場合は除く)。それ以外の中から投票・挙手・話し合い等の方法により選出された代表者であることがポイントです。

意見書に記載する内容は、特に意見が無ければ、「異議なし」とだけ記載し、代表する労働者に署名捺印をしてもらいます。

「意見を聞く」の意味は、過半数の代表者と協議をしたり同意を得る必要は無いとされています。よって、意見書の内容は、反対意見が記載されていてもかまいません。あくまでも意見として取り扱われるだけで労働局には受理してもらえます。その場合、従業員の反対を押し切って就業規則を作成して労使間としてどうなのかという問題は残ります。

意見書に署名捺印をしてもらえなかった場合は、その理由を記載した「意見書不添付理由書」を作成して提出すれば、労働局には受理してもらえます。

就業規則の提出先官庁

提出方法

届出は、紙の書面で提出する方法、CD-R等の電子媒体で提出する方法、電子申請により提出する方法の3通りあります。

紙の書面で労働基準監督署に提出するのが一般的です。
A4サイズの用紙にプリントアウトして、事業所を管轄する労働基準監督署の窓口に出向いて提出するか、郵送で提出します。
郵送する場合は、控えの書類に労働基準監督署の受付印を捺印して郵送してもらうことになるため、返信用封筒を忘れずに入れておきましょう。

CD-R等の電子媒体による提出は、様々な形式があり、一定の条件をクリアしないと受け付けてもらえません。

電子的に提出する場合は、電子申請事前準備リーフレット等がある書いてある厚生労働省のページを参考にして下さい。

提出先

事業所を管轄する労働基準監督署を探すには、当ページの都道府県別リンクから辿ると簡単に見付けられます。

都道府県別リンクをクリックすると、新しくウインドウ(タブ)が開きますので、

  1. 事業所のある都道府県をクリック
  2. 「1.2 県内諸官庁等 所在地・案内図へのリンク」内にある「○○労働局・労働基準監督署・公共職業安定所」をクリック

厚生労働省のページが表示されます。労働基準監督署の一覧に、住所が掲載されています。

提出する書類(紙で提出する場合)

労働基準監督署に提出する書類は、

  • 就業規則
  • 代表労働者の意見書
  • 就業規則(変更)届

この3点です。

事業場が1箇所の場合

上記の書類を各2部ずつ作成し、1部は労働基準監督署に提出し、もう1部の控えは監督署の受付印を押してもらった上で会社に保管します。

事業場が複数の場合

上記の書類を「事業場」毎に各2部づつ作成し、事業場を管轄する監督署に提出します。1部は労働基準監督署に提出し、もう1部の控えは監督署の受付印を押してもらった上で会社に保管します。

事業場が複数で、本社の就業規則と同一の場合

本社の就業規則と他の事業場の就業規則が同一内容の場合に限り、「就業規則一括届出制度」を利用して、本社の所在地を管轄する労働基準監督署に一括して提出を行うことができます。

その場合、

  • 「就業規則」は、事業場を管轄する監督署の数と同じ数(提出・控 各1部)
  • 「意見書」は、各事業場毎に必要(提出・控 各1部)
  • 「就業規則本社一括届出対象事業場一覧表 」(提出2部、控1部)

を用意して提出し、控えに監督署の印を押してもらった上で会社に保管します。

概要についてもう少し詳しく知りたい方は、東京労働局のページにある「就業規則一括届出制度リーフレット」が参考になると思います。各都道府県により内容が若干異なる可能性がありますのでご注意下さい。

提出書類の様式ダウンロード

「就業規則(変更)届」は、定型の申請書様式は定められておらず、任意の用紙に「事業所の名称、事業所の所在地、使用者の氏名等」を記載して提出すれば良いとされています。(掲載元)

東京労働局のWebサイトの様式集に、一通りの様式が用意されていましたので、リンクを張っておきます。

参考になりそうな手引きはこちら。

まとめ

就業規則を作成することの大切さと、作成から提出までの内容について伝わりましたでしょうか?

本記事の冒頭にも少し書きましたが、都内の従業員5人以下の企業では、63%が作成していないという就業規則ですが、6人以上の企業ではほぼ全てが整備済みという回答で、二極化しているそうです。東京中小企業家同友会調査、日本経済新聞

後々トラブルが発生しない様な内容で作るためには、専門家に依頼して作ってもらうのが一番良いのですが、零細企業の場合はなかなか予算的に厳しいこともあると思います。

就業規則が無いと、従業員に非があって懲戒解雇をしたくても出来ず、解雇予告または予告手当の支払が必要になってしまいます。

その様なリスクを避けたり、就業規則を作成し届け出ていることを要件としている補助金を貰いたい場合には、労政労働省の「モデル就業規則」のひな形を使うなどして、とりあえず就業規則を作成して、所定の手続きを行っておくことをオススメします。